映画「けいおん!」一見ゆるゆるなアニメ映画だけど最高の青春映画!

(某勉強会用に書いた原稿をもったいないから載せます)


 友人に「いい映画ないかな?」そう聞かれたら映画「けいおん!」をお勧めすると良い。同作はTBSの深夜アニメとして人気の高かった「けいおん!」の劇場版だ。2009年に第一期「けいおん!」放送開始直後から人気が高まり、第二期「けいおん!!」では放送局数を拡大して放送され人気を不動のものとし、同作品の人気は社会現象とまで言われた。ローソンとタイアップして関連商品フェアが行われたのを見たことはないだろうか? また新宿駅東口のルミネエストの外壁に掲げられた「けいおん!」キャラクターを「何だろう?」と思った人も多いだろう。そんな盛り上がりを見て「このアニメってなんだろう」と思った人も多いのではないだろうか。 内容は女子高生がバンド活動したり部室でお茶を飲んだり話をする日常を描いたテレビアニメ作品。その日常生活をゆるゆるさ加減を楽しく描いた事が人気の理由だと言われている。その社会現象とまで言われた人気作がついに映画化と発表されたのは第二期放送終了直後のこと。内容は、一見、ゆるーい、ゆるゆる、なもの。でも涙腺もゆるゆると緩む。あなたが学生なら今を輝いてみたいと決心し、大人にとっては青春時代の輝きを噛みしめたい、そう思わせる青春映画だ。テーマは残される後輩に何を贈るかというシンプルなもの。だがシンプルさ故に感動させる。
 今回の映画では主人公の平沢唯をはじめ軽音部の3年生が卒業を控えた時期から始まる。一人学校に残される後輩の中野梓に何か贈る事ができないだろうか? 卒業するヒロインたちの、その想いがドラマの中心となっている。テレビアニメ「けいおん!」は日常描写が中心で目立ったドラマはなく、むしろそれが評価されてきたと言われている。映画での中野梓を中心にしたドラマも大げさな愛憎劇や深刻な悩みといったものではなく、一緒に高校生活を楽しんだ後輩への自然な気持ちとして描かれている。あまりに些細な悩みであるがゆえに、見ている人の多くはそこにドラマがある事にすら気が付かないかもしれない。
 だが確かにそこにドラマは存在する。後輩への贈り物を何にするかという些細な事ではあっても、卒業するヒロインたちは確かに苦悩している。劇中行われる放課後ティータイムのライブシーンは、卒業するヒロインたちと中野梓の関係が込められていて、それがドラマを起動する起点となっている。例えば冒頭のフェイクライブのシーンは、学生時代の軽音部の楽しさを象徴していて、それが中野梓に贈り物をしたいというモチベーションを得るきっかけとなっている。ロンドンへの卒業旅行という大イベントも、旅行中の中野梓の頑張りを卒業生が認識し、モチベーションを高める効果を高めている。また何を贈ろうかと苦悩する平沢唯の様子は、ギャグを交えて描かれている。例えば、考えをまとめたメモを中野梓に見られてしまった事や、それなら留年すれば? という妹平沢憂からのアドバイスが元で、中野梓が様々な誤解する様子が微笑ましい。そのバランスが如何にも「けいおん!」らしい。
 中野梓に贈られる「モノ」も、これまでの学生生活から考えれば自然な成り行きと思える。終盤のライブシーンでは、贈られた「モノ」に先輩たちが込めた気持ちに気づいた中野梓が徐々に表情を変えていく。贈り物を受け取った中野梓の最終的な反応は、途中でセリフが聞こえなくなってしまい、あとは想像するしかない。だが、卒業するヒロインたちの心情によりそって、想像してみよう。自然に涙腺は緩んでいくだろう。
 卒業するヒロインたちから中野梓は何かを受け取った。それは卒業するヒロインたちが、期せずして軽音部で知らずに受け取っていた、青春の証ともいえるものだった。青春の連環といってもいい。
 思えば青春の悩みとは、後に考えれば本当に日常生活の中での些細なものなのかもしれない。だが悩む当人にとっては真剣で、それこそが青春の悩みの輝きなのだ。
 青春を体験したい人に、ぜひこの映画を観てほしい。