オタクの自己イメージとパブリックイメージの違い

信州大学の菊池先生や(https://soar-ir.shinshu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10091/2964/1/Chiiki04-003.pdf )、ほかのオタク研究での調査によれば、対象学生への調査でオタクといえば何を思い浮かべるか語句を挙げるという調査項目で、90年代も00年代も10年代もすべてアニメが30%弱でトップだったという(なお調査では「具体的なアニメのタイトルなどは、 「アニメ」というカテゴリに含めている」そうなのであるが)。

歴史的に見ればオタクの量的拡大は80年代以降アニメがけん引してきたから、その印象が今でも色濃く残っているのが原因なのだろうか。また最大公約数的に多くの人が知っているネタがアニメのネタであるという事を表しているのだろうか。

とはいえ、おそらくオタクを自称する人たちにとっては今でも変わらずアニメは大事なものであったろうけれど、「オタクの最前線」を目指す人たちにとっては、それはゲームであったりラノベであったりネットの様々な事象であったりして、アニメが最先端でありえたのは90年代までではないかと思う。

アニメブームという言葉は、人によって指すものが、かなり違うのだけれど、ただヒットするだけでなく、社会現象と言っていいのは、90年代のエヴァンゲリオンまでだろう。もちろん社会現象と厳密にいえるのは80年代までという意見や00年代でも多くの作品が社会現象と言われたことは承知している。だが、その証拠としてエヴァのブームで挙げられるのは作品のムックだけでなく、いわゆる批評の多さだと思う。出版不況や言説のネットへの移行という要素を割り引いても、その多さは尋常ではなく最近の作品とは比べ物にならなかった。批評し論じる動きがあれほど盛り上がったのは、エヴァは、当時の最先端、社会の様々な問題はエヴァを通じて語れる、そう考えている人が多かったからだと思う。そして、ポストエヴァでも同様の事が可能ではないかと多くの人が試み、失敗した。

目を転じて、今も、ヱヴァ映画は先端の一つではあるけれども、かつての勢いはない。では、なぜ今でもアニメがオタクを指し示すものだと多くの人が思うかといえば、それは90年代の出来事を記憶しているからだと思う。というのも先の調査では00年代に行った際には秋葉原に関する語句が多く見られたからである。

メイド、秋葉原、地下アイドル(AKBはおそらくイメージされていない)など、当時(2002年以降〜)のメディアが繰り返し秋葉原に関する言説を報じてきたからである。アニメについては、秋葉原とアニメソフトの結びつきから報じられることも多かったし、一部の声優の人気がアニメと結びついて論じられたり、アニメには散発的なヒット作も多く、また無料で視聴できるアニメの拡散する力は非常に強かったから、記憶にとどまり続けたのだろう。さて、では一般の人たちのオタクのイメージが「アニメ」だと言えるかといえばそれは怪しい。というのも上記調査ではアニメこそ3割程度を保っているが、その他の項目については、時代によってばらばらであり(それは調査方法や対象に違いがある事も大きいだろうが)、アニメ程多くの得票を得たものが無かった事におあらわれている。オタクの拡散と言い古された言葉が頭をよぎる。せいぜいアニメがオタクコンテンツを代表するものであるといえる程度だろうか。

これを逆の方向から見れば、オタクはアニメ以外に、代表といえるコンテンツを育ててきてはいない、という事がいえるかもしれない。よくオタクがコンテンツ産業を育てたなどという人がいるけれど、特定の作品であればともかく分野として、この調査対象に届くまで育ったコンテンツは少数といえるだろう。

たとえば、AKBはあがってもユーザーが育てたといわれる東方は得票ゼロである。そもそも、コミケを挙げた人もおらず、オタクと同人文化の関係を知っている人自体少数派なのかもしれない。少し調査対象を変えれば、結果も違うだろうが、所詮メディアで広く報じられたものしか人の心に残らないという事を指し示しているだけなのだろう。オタクが凄いと思っているコンテンツは一般には大したものに感じられていないという事も言えるだろう。


とはいいつつ、オタクはそれでいいのだ、とも思える。

元々、それが世に受け入れらるものかどうかにかかわりなく、オタクは自分の好きなモノを好きという人たちだと思うからである。また、人に受け入れられる、知られるかどうかに関係なく、好きなものを好きであり続けるというオタクのあり方を再確認できるのではないかとも思う。ところでこの文章に特に結論めいたことは特にないのだが、なんとなく、吾妻ひでお(70年代から80年代にかけて活躍した漫画家、90年代失踪しそれを「失踪日記」で一躍有名に)の漫画家になってからの言葉を思い出す。「自分が面白いと思っている事がそれほどウケないと気づいた」これは、オタクの自己イメージとパブリックイメージの違いに通じるものがあるのではないだろうか。