「去年はいい年になるだろう 」

●去年はいい年になるだろう (PHP山本弘

去年はいい年になるだろう

去年はいい年になるだろう

私小説風歴史改変SF純愛モノとでも言えばよいのでしょうか。歴史改変が行われつつある世界で明らかに作者の投影である主人公に様々な出来事が降りかかります。

読んでみて面白かった部分は何点かあります。感想を書いてみます。

作者の小説では何度も描かれている異なる知性体とのコミュニケーションあるいはディスコミュニケーションというテーマがあります。今回ははるか未来からやってきたという「ガーディアン」と名乗るアンドロイドと主人公の間に取り交わされるコミュニケーションとディスコミュニケーション。これと歴史改変の経緯が原因で主人公はある状況に追い込まれてしまいます。終盤の主人公とアンドロイドとがお互いの齟齬を確認する場面、何故こんなことになってしまうのだろう、理由は理解は出来るけど納得できない、主人公と一緒に悩んでしまう、ある意味この小説の最大の見せ場だろうと思います。

また、ここはネタバレなしで読んで欲しいので詳細は省きますが、戦闘場面。ここは燃える。

あとは、主人公は作者の投影なのですが、作者の個人的交流関係が要所要所で登場し、作者の知人とのやり取りが世界の状況説明の役割を果たしているところでしょうか。作者が現実にも会長をしている、と学会というサークルの活動でガーディアンのテクノロジーをネタに発表する場面における他の会員の反応なんか面白いと思いました(このシーンには例えば新田五郎さんも登場してます)。また、地球の周りを廻るガーディアンの母船を取材には知人の編集者や漫画家も取材のためにやってきていて、そこで某SF作品をネタに盛り上がるシーンは、ちょっと噴き出した。

ちょっと分厚いですが、面白いので、一気に読み終えました。

ただ、一点、ひがみっぽい事を書くと、フィクションですから、あくまで作中の山本弘というキャラクターについてなのですけど、主人公はコミケにサークル参加するんです、評論・情報の島で。そこで予告無しの小説本が売れなくて在庫の山を抱えるというシーンがあります。それで失敗したと困るわけなんですけど、それでも、売れた同人誌の頒布数が100冊を超えている! 1000円の本が凄い売れている! 作中設定の同じコミケで、しかも同じ評論情報で、カタログにも掲載されていたにもかかわらず、30部の同人誌すら完売出来なかった俺は、ここだけは主人公山本弘の不幸に素直に同情できないのでした。ちなみに俺は30部を全部売り切るのに数年かかりました。

終わり。