「3月19日に生まれて」

(某勉強会用に書いた原稿をもったいないから載せます)

 君は覚えているかな、今日、2011年3月19日の誕生日は僕の今までの人生の中でも強く印象に残る誕生日だった。というのも、この日は僕の大好きなプリキュアたちが活躍する「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ虹色の花」の公開日だったからだ。公開初日に観に行ったよね。プリキュアは未就学児童、特に女児をメインターゲットにしたキャラクターだから僕のような男子が公開を待ち望んでワクワクして眠れなくなるくらい夢中になるのも可笑しな話だと思う。友達からも、からかわれたよね。
 とはいえ、この年は東北に大震災が起こったよね。それも公開の直前だった。被害状況を知れば知るほど大変な事が起こっているのが分かって来た。僕の住んでいる日本がバラバラになっていると感じた。だから、楽しみ半分、こんな時に映画なんか観に行っていいのだろうかと悩んだ。公開日が決まった時はプリキュアが僕の誕生日をお祝いしてくれる! なんて能天気に喜んでいたけど楽しんでいいのかと罪悪感を感じた。映画館ではネットオークションで手に入れた前作のミラクルライトを子供たちと一緒にこっそり振ってみようなんて考えていた事が恥ずかしく感じた。行くのを止めようか、そうも思った。でも、僕は観に行った。この映画は僕の事と今の日本を描いているように思った。僕に、そして日本に、がんばれっ! って言ってくれているんだと思った。
 僕にとってのプリキュアって何だろう? 大げさかもしれないけど、プリキュアは僕の恩人なのだと思う。この数年、僕は病気を患って休みがちだった。家庭の事情で暮らしも大きく変わった。苦しくて気分も落ち込んでいた。そんな僕が、決して諦めず困難に立ち向かうプリキュアの戦う姿を見ては励まされた。彼女たちの明るさに僕もめげずに生きようと思った。だから、僕の恩人であるプリキュアが大集合して活躍するこの映画を見逃すことは出来なかった。この映画でも劇中プリキュアたちはパートナーとバラバラにされてしまう。そのせいで不安になる。でも彼女たちは諦めなかった。どんな大きな困難にぶつかっても立ち止まらない、決して。苦しくても僕も立ち止まってはいけないな、そう教えられた。
 それに真のボスキャラのブラックホールは今の日本の閉塞感を表しているように思った。もちろん映画が作られたのは震災前だから制作者が震災の事を考えて作ったわけじゃない、けれど不思議なくらい今の日本だって思った。ブラックホールは地球そのものに覆いかぶさり襲ってくる。地球が閉じ込められてしまう。しかもプリキュアたちの変身は解けてしまい、もう一度変身するためには妖精たちと別れなければならないというダブルバインド。君も覚えているよね、今の日本が震災後の対応のために矛盾する複数の課題に身動きが取れなくなってしまっていることを。でも、立ちすくんでいるだけで無力感に負けちゃいけない。離れていても気持ちがつながっていれば皆は一緒に進んでいける。そんなプリキュアの言葉に日本が進んで行くための希望があるように思えた。手をつないで一つの輪になった21人のプリキュアのように日本も一つになれればいいんだ。
 5年後の僕はどうしていますか。きちんと社会で居場所を作って働けていますか。5年後の日本はどうなっていますか? もしかすると、今日より、もっとひどい事になっているかもしれないね。プリキュアオールスターズDXは今回で終わってしまうけれどプリキュアは続くし、僕はきっとオールスターズDXが帰ってきてくれるって信じてるよ。新しいオールスターズ映画が今まで通り3月に公開されるなら2016年3月19日には、また誕生日にプリキュアを観に行くことが出来ると思うんだ。今日は悩みながらも映画を観て良かった。プリキュアたちに貰った希望と勇気を胸に僕は生きていくよ。5年経っても僕や日本にはいろんな困難が立ちふさがっていると思う。だから5年後の僕もプリキュアオールスターズの映画に希望と勇気を貰えるといいな。今日が過去になっている未来の3月19日、君と僕の誕生日に。